映画『透明人間』の感想とあらすじ
【目次】
【作品情報】
あらすじ
天才科学者で富豪のエイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)の恋人セシリア(エリザベス・モス)は、彼に支配される毎日を送っていた。ある日、一緒に暮らす豪邸から逃げ出し、幼なじみのジェームズ(オルディス・ホッジ)の家に身を隠す。やがてエイドリアンの兄で財産を管理するトム(マイケル・ドーマン)から、彼がセシリアの逃亡にショックを受けて自殺したと告げられるが、彼女はそれを信じられなかった。
キャスト
- エリザベス・モス(セシリア・カシュ)
- オリヴァー・ジャクソン=コーエン(エイドリアン・グリフィン)
- ハリエット・ダイアー(エミリー・カシュ)
- オルディス・ホッジ(ジェームズ・ラニアー)
- ストーム・リード(シドニー・ラニアー)
- マイケル・ドーマン(トム・グリフィン)
【レビュー】
感想
ホラー映画における本当の恐怖というものは、自分たちに起きている恐怖を描いたものだ。これはスティーブン・キングがホラーを創作する上での信条である。
本作における「恐怖」とは、支配されること。それも誰にも理解されずに。彼氏に虐待され、逃げたとなれば、透明人間となった彼に追いかけ回される。知らぬ間に嫌われていたり、大切なものがなくなっていたりと、全てがコントロールされていく。当然、誰にも理解されない。自分が狂ったかもしれない。何も信用できなくなる恐怖。それでも、誰かがそこにいる恐怖。
本作の恐怖のふり幅はかなり大きい。例えば、PTSDを患った人や、ストーカー被害やDV被害にあった女性、精神病の経験がある人には、本作における恐怖は、ただの怖いものではないであろう。みんなが経験しているものとして、そこにいる。いるはずのないところに、人の気配を感じる怖さ。今でも私は暗闇にいると感じている。そういった怖さも味わえる。それこそ、本当の恐怖である。
本作は、『ビューティフル・マインド』や先日Amazonプライムで配信された話題作『コリアタウン殺人事件』、『アメリカンスナイパー』などの、PTSDや統合失調症などの精神病ドラマ、『彼女が目覚めるその日まで』などの、抗NMDA受容体脳炎などの脳性の病気の物語とさして変わらないのである。
特に『彼女が目覚めるその日まで』には、脳性の病気であるのにも関わらず、症状が幻覚や被害妄想などの精神病と似ていること、それに加えてかなり珍しい病気であったことから、誰にも理解されずに、イカれたと一蹴され苦悩する姿が描かれていたが、本作はほとんどそれと同じような感覚が得られる。
本当の怖さは、透明人間になって襲ってくることではない。孤立してしまい、誰にも理解されないことが怖いものとして強調されており、そうして現実の問題・恐怖と表裏一体にして描いていることが本作の最大の良さである。
演出も見事。オープニングから飛ばしまくっている。セリフは一切なしで、じわじわと緊迫感を与える。『パラサイト 半地下の家族』でもあった現代建築の家ならではの、芸術性の高さが伺える立体感のある空間で、非常に美しくもハラハラするシーンになっている。
前半は怖がらせるSEは殆ど無いまま、Jホラー的な怖さを体感できる。そこから生まれる、前述した精神病と間違われかねないことで理解されない怖さや、周りをコントロールされていく怖さをまざまざと見せてくる。
対して、後半ではアメリカンホラーらしさのあるアグレッシブな怖さを体感できる。前半ではじっくり描いた怖さをベースにして、テンポ良く展開を進めていき、しっかりと得体の知れない相手と戦う怖さも描いている。
こうして静と動をうまく使い分け、それぞれの怖さを効果的に描き出ししていたのは、ものすごく良かった。ストーリーも、予想を超えていく展開を何回も見せられるので、とにかく楽しい。
そこにいるかもしれないという怖さを、まるで夜中にひとりで歩いている時に感じる怖さと全く同じように体感できる。ゆっくりとカメラがパンすることの意味有りげな不気味さや、人の頭や腕を軸にカメラを動かす演出、ほとんどが定点で、手ブレなどの人間的なカメラテクニックがなく、機械的で無機質な動きをしていたりと、細かいところをあげればキリがないほど、毎度のシーンが凝っている。
『侍女の物語』のエリザベス・モスの演技も素晴らしく、彼女から感じる恐怖、心の壊れた感じなど、演技派の威厳を遺憾なく発揮していた。ルックスもどこか脆いイメージで、キャラに合っていた。これからに注目。
リーワネル監督は本当にホラー映画界における天才。『オオカミ男』も監督するとのことで、期待しかない。
おすすめ度
映画『透明人間』のおすすめ度は4.6点(5点満点)。
前半と後半で全然違った怖さのテイスト。その違いが怖さをより効果的に描き出していて面白い。ここにいるかもしれないという恐怖を存分に体感できる。
ストーリーも予想できない展開が多く、満足感の高い作品。
そして、エリザベス・モスの演技が本当に素晴らしい。ラストのなんとも言えぬ表情に震え興奮した。
【おまけ】
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